「戦略とITコンサル、どっちがいいんですか?」
「ITコンサルから戦略への転職は可能?」
「ぶっちゃけ、年収はどれくらい違うの?」
今回は、戦略ファームの内側から見たITコンサルタントの実態について、忖度なしで書きます。私自身、メーカー時代にITプロジェクトで散々苦労し、その後戦略ファームでITコンサルとも協業してきた経験から、両者の違いと共通点、そして転職戦略について解説します。
01. ITコンサルと戦略コンサルの決定的な違い
まず結論から言います。
ITコンサルと戦略コンサルは、そもそも見ている景色が違います。
戦略コンサルが「What」と「Why」を考えるのに対し、ITコンサルは「How」を設計する。これが本質的な違いです。
評価軸 | 戦略コンサル | ITコンサル |
---|---|---|
主な問い | 何をすべきか?なぜ? | どう実現するか? |
クライアント | CEO、事業部長クラス | CIO、IT部門長クラス |
プロジェクト期間 | 2-4ヶ月(短期集中) | 6-24ヶ月(長期実装) |
チーム規模 | 3-5名(少数精鋭) | 10-50名(大規模) |
成果物 | 戦略提言書 | 動くシステム |
難易度の源泉 | 抽象度の高さ | 複雑性の管理 |
メーカー時代の失敗から学んだこと
私がメーカーにいた時、某大手コンサルファームのITコンサルタントと一緒にERP導入プロジェクトを経験しました。正直、当時は「なんでこんなに資料ばっかり作ってるんだ?」と思ってました。
でも今なら分かります。彼らは「経営層」と「現場」と「IT部門」という3つの異なる言語を翻訳しながら、全体最適を実現しようとしていたんです。これは戦略コンサルとはまた違った難しさがある。
実際の仕事内容の違い
戦略コンサルの1週間
- 月曜:仮説構築、分析設計
- 火曜:エキスパートインタビュー
- 水曜:データ分析、モデリング
- 木曜:ストーリーライン作成
- 金曜:ステコミ(ステアリングコミッティ)
ITコンサルの1週間
- 月曜:要件定義セッション
- 火曜:ベンダー調整会議
- 水曜:設計レビュー
- 木曜:進捗管理、課題対応
- 金曜:PMO定例、報告書作成
どちらが上とか下とかではなく、求められる能力セットが違うということです。
02. ITコンサルの年収構造と上限値
転職を考える上で避けて通れない年収の話。ここは数字で語りましょう。
職位 | 経験年数 | 基本年収 | ボーナス込み | 戦略ファーム比 |
---|---|---|---|---|
アナリスト | 0-3年 | 450-600万 | 500-700万 | ▲20-30% |
コンサルタント | 3-5年 | 600-850万 | 700-1000万 | ▲25-35% |
シニアコンサルタント | 5-8年 | 850-1200万 | 1000-1400万 | ▲30-40% |
マネージャー | 8-12年 | 1200-1700万 | 1400-2000万 | ▲35-45% |
シニアマネージャー | 12年+ | 1700-2500万 | 2000-3000万 | ▲40-50% |
パートナー | 15年+ | 3000万~ | 4000万~1億 | ▲50-60% |
年収の上限値について、本音を言います
ITコンサルの年収上限は、戦略コンサルより明確に低い。これは事実です。
理由は簡単で、クライアントへの請求単価が違うからです。戦略プロジェクトは月額2000-5000万円の規模感ですが、ITプロジェクトは工数ベースの積み上げになることが多く、単価上限が存在します。
ただし、ITコンサルには戦略にない強みがあります。それは「安定性」と「専門性の蓄積」です。
報酬を最大化する要因
要因 | 影響度 | 具体例 |
---|---|---|
専門領域 | 高 | SAP、Salesforce等の認定資格保有者は+20-30% |
業界特化 | 中 | 金融、製薬等の規制業界経験者は+15-20% |
グローバル案件 | 高 | 英語+海外プロジェクト経験で+25-35% |
セールス力 | 高 | 案件獲得実績があれば+30-50% |
03. プロジェクトの実態(戦略ファームとの比較)
戦略ファームで働いていると、ITコンサルのプロジェクトと協業することがあります。その時に感じる、両者の違いを具体的に説明します。
典型的なDXプロジェクトの流れ
フェーズ | 期間 | 戦略コンサル | ITコンサル | クライアント満足度 |
---|---|---|---|---|
構想策定 | 2-3ヶ月 | 主導 | サポート | ★★★★★ |
要件定義 | 3-4ヶ月 | 監修 | 主導 | ★★★★☆ |
設計・開発 | 6-12ヶ月 | 不在 | 主導 | ★★★☆☆ |
導入・展開 | 2-3ヶ月 | 不在 | 主導 | ★★☆☆☆ |
定着化 | 3-6ヶ月 | 再参画 | 主導 | ★★★☆☆ |
プロジェクトの成功率、本当のところ
私が見てきた限り、DXプロジェクトの「完全成功率」は2割程度です。
なぜこんなに低いのか?理由は明確です:
- 理由1:戦略フェーズと実行フェーズの断絶(戦略コンサルが抜けた後の迷走)
- 理由2:現場の抵抗を甘く見すぎている(変革疲れした組織の反発)
- 理由3:ITの制約を考慮しない理想論(レガシーシステムの複雑性)
- 理由4:予算とスコープの非現実的な設定(経営層の過度な期待)
失敗プロジェクトの実例
某大手製造業のグローバルERP導入(予算:50億円→最終:120億円)
戦略コンサル主導で華々しくキックオフ。「3年で投資回収」という野心的な目標設定。
要件定義で想定の3倍のカスタマイズ要求が発覚。戦略コンサルは契約満了で離脱。
開発遅延、予算超過、キーメンバーの離職。火消しのためITコンサル増員(コスト倍増)。
スコープを半分に縮小して、ようやくローンチ。当初目標とは別物に。
教訓:戦略と実行の間には、必ず「翻訳ロス」が発生する。これを最小化できるのが優秀なITコンサルの価値。
04. 必要スキルの本音(面接官の評価基準)
面接官として年間50人以上を評価してきた経験から、ITコンサル採用で本当に見ているポイントを公開します。
スキル項目 | 表向きの重要度 | 実際の重要度 | 評価方法 |
---|---|---|---|
プログラミング能力 | 高 | 低 | 話のネタ程度。実装はしない |
プロジェクト管理 | 高 | 極高 | 具体的な修羅場経験を深堀り |
業界知識 | 中 | 低 | 入社後に身につく |
論理的思考力 | 高 | 極高 | ケース面接で徹底評価 |
コミュニケーション力 | 高 | 極高 | 面接全体を通じて評価 |
英語力 | 中 | 中 | TOEIC800が最低ライン |
資格(PMP等) | 高 | 低 | あれば加点程度 |
ストレス耐性 | 明示せず | 極高 | 圧迫質問への対応で判断 |
面接で落とす人の共通点
- NG1:「なんでもできます」という人 → 専門性がない証拠
- NG2:失敗経験を語れない人 → 修羅場を経験していない
- NG3:技術論に偏る人 → ビジネス視点の欠如
- NG4:批判ばかりする人 → 建設的でない
- NG5:数字で語れない人 → インパクトを定量化できていない
転職前に身につけるべきスキル(優先順位付き)
- 構造化能力:
複雑な問題を要素分解し、MECE(漏れなくダブりなく)に整理する力。これがないと話にならない。 - プレゼンテーション力:
パワポは第二言語。1スライド1メッセージ、ピラミッド構造での論理展開は必須。 - プロジェクト経験:
規模は問わない。ただし、自分が主導した部分を具体的に語れること。 - データ分析基礎:
Excel関数、簡単なSQL、基礎統計。RやPythonができれば尚良し。 - 業界トレンド理解:
DX、AI、クラウド等のバズワードの中身を理解していること。
05. キャリアパスの現実と将来性
ITコンサルのキャリアパスについて、5年後、10年後の現実的な選択肢を整理します。
経験年数 | 選択肢 | 実現可能性 | 年収レンジ | 満足度 |
---|---|---|---|---|
3-5年 | 事業会社IT企画 | ★★★★★ | 700-1000万 | 高 |
3-5年 | 戦略コンサル転職 | ★★☆☆☆ | 900-1300万 | 中 |
5-8年 | 事業会社DX推進役員 | ★★★★☆ | 1200-1800万 | 高 |
5-8年 | スタートアップCTO/CPO | ★★★☆☆ | 800-1500万+SO | 変動大 |
8-12年 | 独立・起業 | ★★★☆☆ | 0-5000万 | 変動大 |
8-12年 | ファームパートナー | ★★☆☆☆ | 3000万-1億 | 高 |
10年+ | 事業会社CIO/CDO | ★★★★☆ | 2000-3500万 | 高 |
キャリアの現実(統計データ)
私が知る限り、ITコンサル経験者の10年後は以下の分布です:
- 40%:事業会社の管理職・役員(最も多いパターン)
- 25%:他ファームへ転職(キャリアアップ目的)
- 15%:独立・起業(成功率は半々)
- 10%:現ファームでパートナー(狭き門)
- 10%:その他(異業種転職、留学等)
ITコンサルの将来性について
正直な見解を述べます。
ITコンサルの需要は、向こう10年は確実に拡大します。理由は明確で:
- DXの本格化:日本企業のDX投資はまだ序章。本番はこれから
- 人材不足:IT人材の絶対数不足は解消されない
- 複雑性の増大:システムの複雑化で専門家需要が増加
- 規制対応:セキュリティ、プライバシー規制への対応需要
ただし、AIの進化でジュニアレベルの仕事は確実に減ります。生き残るには、上流工程での価値提供が必須です。
06. 転職成功の具体的戦略
メーカーから戦略コンサルに転職した経験、そして面接官としての経験から、ITコンサル転職を成功させる具体的方法を解説します。
転職準備のタイムライン
時期 | アクション | 具体的内容 | 重要度 |
---|---|---|---|
6ヶ月前 | 自己分析 | キャリアの棚卸し、強み・弱みの言語化 | ★★★★★ |
5ヶ月前 | 情報収集 | ファーム研究、OB/OG訪問 | ★★★★☆ |
4ヶ月前 | スキル補強 | ケース対策、英語力向上 | ★★★★★ |
3ヶ月前 | 書類作成 | 職務経歴書の作成、添削 | ★★★★☆ |
2ヶ月前 | 応募開始 | エージェント活用、直接応募 | ★★★★★ |
1ヶ月前 | 面接対策 | 模擬面接、想定問答作成 | ★★★★★ |
応募戦略の優先順位
Tier 1:グローバルファーム
Accenture、Deloitte、PwC、EY、KPMG
➤ 規模とブランド力は最強。ただし競争も激しい
Tier 2:日系大手
NRI、NTTデータ、日立コンサル、IBM
➤ 日本企業との相性良好。転職しやすい
Tier 3:専門特化型
ベイカレント、アビーム、シグマクシス
➤ 特定領域に強み。キャリアを尖らせやすい
面接突破の具体的テクニック
1. ケース面接対策
ITコンサルのケース面接は、戦略コンサルより「実装可能性」を重視します。
例:「コンビニの売上を2倍にするには?」
- 戦略コンサル的回答:新規事業、M&A、海外展開
- ITコンサル的回答:POSデータ活用、在庫最適化、オムニチャネル
2. 職務経歴書の書き方
必ず含めるべき要素:
- 定量的成果:「売上○%向上」「コスト○億円削減」等の数字
- プロジェクト規模:予算、期間、体制を明記
- 自分の役割:「私が」何をしたか具体的に
- 使用技術:具体的なツール、手法、フレームワーク
- 困難と克服:どんな課題をどう解決したか
3. 逆質問の重要性
面接官として、逆質問で候補者の本気度を測っています。
良い逆質問の例:
- 「御社の○○領域の強みは、どこから来ていますか?」
- 「入社1年目に期待される成果は何ですか?」
- 「最近の代表的なプロジェクト事例を教えてください」
NGな逆質問:
- 「残業時間はどれくらいですか?」(やる気を疑われる)
- 「研修制度は充実していますか?」(受け身の印象)
- 「○○の資格は評価されますか?」(資格頼みの印象)
転職エージェント活用の本音
エージェント選びは超重要です。私の経験則では:
エージェントタイプ | メリット | デメリット | おすすめ度 |
---|---|---|---|
大手総合型 | 案件数が多い | 専門性が低い | ★★★☆☆ |
コンサル専門 | 業界理解が深い | 案件が限定的 | ★★★★★ |
ヘッドハンター | 非公開案件あり | 実績がないと相手にされない | ★★★★☆ |
裏技:複数のエージェントを並行活用し、情報の非対称性を利用する。ただし、同じ案件への重複応募は絶対NG。
07. 向き不向きの判断基準
最後に、最も重要な話をします。
ITコンサルは、全員にお勧めできる仕事ではありません。
特性 | 向いている人 | 向いていない人 |
---|---|---|
仕事観 | 成長>安定、変化を楽しめる | 安定重視、ルーティン好き |
思考特性 | 抽象⇔具体を行き来できる | 一つを極めたい職人気質 |
対人関係 | 多様な人と協働できる | 少人数で深い関係を好む |
ストレス耐性 | プレッシャーで成長する | マイペースを重視 |
学習意欲 | 常に新しいことを学びたい | 一度覚えたら変えたくない |
体力 | 激務期を乗り切れる | 規則正しい生活必須 |
自己診断チェックリスト
以下の項目で、7個以上当てはまればITコンサル適性あり:
- □ 締切に追われる方が実力を発揮できる
- □ 知らない業界の話を聞くのが楽しい
- □ Excel作業が苦にならない(むしろ好き)
- □ 論理的に説明することが得意
- □ 批判されても冷静に対応できる
- □ 月100時間残業した経験がある
- □ 同時に複数のタスクを処理できる
- □ 新しいツールやシステムをすぐ覚えられる
- □ チームで成果を出すことに喜びを感じる
- □ 給料が上がるなら激務も受け入れられる