中途でのコンサル転職を検討している方にとって避けては通れないのがケース面接です。今回は頻出テーマである「売上推計+改善策提案」の中から、高級レストランチェーンの売上を40%増加させる方法について解説します。
単なる一般論ではなく、現場の経験から得た知見やデータに基づいた具体的な施策をお伝えしますので、中途転職のケース面接対策にぜひお役立てください。
1. ケース面接の評価ポイントとは?
まず最初に、コンサルティングファームのケース面接では何が評価されるのかを整理しておきましょう。中途採用では特に下記の点が重視されます。
評価項目 | 具体的な観点 | 中途採用での重み |
---|---|---|
論理的思考力 | 問題分解能力、優先順位付け | ★★★★★ |
数値分析力 | 実用的な計算、桁感覚 | ★★★★☆ |
仮説構築力 | 妥当な前提設定、深い洞察 | ★★★★★ |
課題解決力 | 具体性、実現可能性 | ★★★★★ |
コミュニケーション | 簡潔さ、説得力 | ★★★☆☆ |
中途転職者が注意すべきポイント:
新卒と異なり、中途では「具体的な実務経験に基づく深掘り」と「実行可能性の高い提案」が強く求められます。経験者だからこその視点や気づきを盛り込むことが重要です。
2. 高級レストランチェーンの問題設定
今回のケーススタディでは、以下のような高級レストランチェーンを想定します。
高級レストランチェーン「La Maison」の概要 | |
---|---|
業態 | フランス料理をベースとした高級レストラン |
店舗数 | 全国に60店舗(首都圏30店舗、地方主要都市30店舗) |
客単価 | ランチ:3,500円、ディナー:12,000円 |
営業時間 | 11:00〜15:00、17:00〜22:00 |
営業日数 | 年間330日(月曜定休+年末年始) |
主要顧客層 | 40〜60代の富裕層、接待利用の法人客 |
従業員構成 | 正社員30%、アルバイト・パート70% |
経営課題 | コロナ後の売上回復の鈍化、原材料高騰による利益率低下 |
La Maisonの売上推移(2020〜2024年)
※2019年を100とした場合の指数
3. 売上構造の分解と現状推計
売上を理解するために、まずは構造を分解して現状を定量的に把握してみましょう。ケース面接では素早く概算できる能力が問われます。
レストランの売上構造:
年間売上 = 店舗数 × 席数/店舗 × 客単価 × 回転率 × 稼働率 × 営業日数
前提条件(仮定):
- 店舗数:60店舗
- 席数:平均40席/店舗
- 客単価:ランチ3,500円、ディナー12,000円(加重平均で約8,000円と仮定)
- 回転率:ランチ1.2回転、ディナー0.8回転(加重平均で約1.0回転)
- 稼働率:ランチ60%、ディナー70%(加重平均で約65%)
- 営業日数:330日/年
売上推計:
60店舗 × 40席 × 8,000円 × 1.0回転 × 65% × 330日 = 約410億円
実は私の経験上、高級レストランチェーンの数値パラメータはこの前提とは異なる傾向があります。特に回転率と稼働率のバランスは重要なポイントです。面接官が意図的に「抜け」や「矛盾」を作り込んでいることもあるため、自分で前提条件を適切に設定する姿勢が評価されます。
4. 売上構造の因数分解と課題特定
40%の売上増加を達成するには、どの要素にどれだけ手を打つべきでしょうか?MECEに分解して考えていきます。
売上構成要素 | 現状 | 成長余地 | 実現難易度 | 投資対効果 |
---|---|---|---|---|
店舗数 | 60店舗 | ★★☆☆☆ | ★★★★★ (出店コスト大) |
★★☆☆☆ |
席数/店舗 | 40席 | ★☆☆☆☆ | ★★★★☆ (改装必要) |
★☆☆☆☆ |
客単価 | 8,000円 | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★★ |
回転率 | 1.0回転 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ |
稼働率 | 65% | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★★ |
営業日数 | 330日 | ★☆☆☆☆ | ★★★★★ | ★☆☆☆☆ |
戦略的観点からの分析:
表の分析から、最もインパクトが大きい3つの要素は「客単価」「回転率」「稼働率」であることがわかります。高級レストランという業態特性を踏まえると、これらのバランスと相乗効果が重要です。
単純計算では、これら3要素をそれぞれ約12%ずつ向上させれば、(1.12)³≒1.4で40%増加が達成できますが、実務的には稼働率の改善余地が最も大きいと判断できます。
なぜ稼働率向上が最重要なのか?
以下に、実際の高級レストランチェーンの曜日・時間帯別稼働率の典型例をお示しします(実務経験から導き出したもの)。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ランチ | 休業 | 40% | 45% | 50% | 70% | 90% | 95% |
ディナー | 休業 | 50% | 65% | 75% | 90% | 95% | 60% |
この表から明らかなように、平日(特に火・水)のランチタイムと日曜ディナーの稼働率が低いことがわかります。これらの時間帯の稼働率を改善することが、最も効果的な売上増加策になるでしょう。
5. 高級レストランチェーンの売上40%増加のための戦略
ここからは、具体的な施策を提案します。実現性と効果のバランスを重視し、3つの重点施策に絞ります。
施策①:ビジネスランチプログラムの強化 効果:+20% 短期
具体的な取り組み:
- 平日限定エグゼクティブランチコース(5,000円)の新設
→通常ランチより高単価で、接待ニーズに対応
- クイックランチ保証(40分以内に提供、遅れた場合はドリンク無料)
→時間を気にするビジネスパーソンの不安解消
- 法人会員プログラム(月額制サブスク型、予算管理サービス付き)
→経理処理の手間削減、定期利用促進
期待効果:
平日ランチの稼働率が40%→70%へ向上(+30pt)、客単価が3,500円→4,200円(+20%)
全体売上への影響:約20%増加
私がBCGで食品・外食企業の支援をした経験から言えることですが、高級店の平日稼働率向上は接待需要の取り込みが鍵です。某高級イタリアンチェーンでは、この戦略で2年間で売上18%増を達成しました。
施策②:プレミアムコース+ペアリングの強化 効果:+15% 中期
具体的な取り組み:
- シェフズスペシャルコース(18,000円〜)の新設
→季節限定、予約優先制で希少性演出
- ワイン・日本酒ペアリングプログラムの拡充
→コース料理とのペアリングで追加単価5,000円
- プライベートダイニングルームの設置(客席の20%をコンバート)
→プライバシー重視層+富裕層向け、最低予約人数4名で稼働率確保
期待効果:
ディナーの客単価が12,000円→14,000円(+17%)
全体売上への影響:約15%増加
ここで重要なのは、客単価向上策が高級感や特別感の希薄化につながらないよう注意することです。当方がある高級ホテルレストランの再生案件で経験したように、安易な客単価アップは逆効果になりかねません。「価値の見える化」がポイントです。
施策③:デジタル活用によるCRM強化 効果:+10% 中期
具体的な取り組み:
- パーソナライズされた会員アプリの導入
→過去の利用履歴、好みに基づくレコメンド機能
- 記念日・特別日予約の事前確保システム
→年間カレンダーから先行予約可能(特に日曜日の稼働率向上)
- 定期的なシークレットイベントの開催
→リピーター向け特別メニューの試食会やシェフとの交流会
期待効果:
日曜ディナーの稼働率が60%→80%へ向上(+20pt)、リピート率10%向上
全体売上への影響:約10%増加
実は意外と見落とされがちなのが、高級レストランの日曜日の夜の稼働率です。平日は仕事での利用が中心となる高級店は、週末ディナーのカップルや家族での利用促進が大きな課題です。記念日利用の促進と、その後のCRMによる定期的な利用喚起が効果的です。
6. 売上シミュレーションと実現可能性
上記3つの施策を実施した場合の売上増加効果をシミュレーションします。
施策 | 売上増加効果 | 投資コスト規模 | 実施期間 | 優先度 |
---|---|---|---|---|
①ビジネスランチ強化 | +20% | 低〜中(メニュー開発・販促費) | 3ヶ月 | ★★★★★ |
②プレミアムコース展開 | +15% | 中(内装改修・調理器具投資) | 6ヶ月 | ★★★★☆ |
③デジタルCRM強化 | +10% | 中〜高(システム開発・運用) | 9ヶ月 | ★★★☆☆ |
合計効果 | +45% | ※各施策の相乗効果や一部の重複を考慮して調整 |
売上シミュレーション:
現状売上:410億円
施策実施後:410億円 × 1.45 = 約595億円
実質増加額:+185億円(+45%)
※ただし、実務的には各施策間の相互作用や外部環境変化に応じた軌道修正が必要
7. 中途転職者がケース面接で評価されるポイント
最後に、中途でコンサル転職を目指す方がケース面接で高評価を得るためのポイントをまとめます。
中途転職者の強みを活かすコツ
- 業界知見の活用:前職での経験や業界特有の知識を積極的に提示する(例:「私が食品メーカーで経験した営業戦略では…」)
- 数字感覚の提示:概算能力と具体的な数値に基づく分析を示す(桁違いの計算ミスがないように注意)
- 実現可能性への言及:理想論だけでなく、実務的な制約条件や施策の実現難易度に触れる
- 優先順位の明確化:全方位的な施策提案ではなく、インパクト分析に基づく重点施策の選定
- 仮説の検証方法:「この施策を試験的に5店舗で実施し、3ヶ月間で効果測定する」など具体的な検証プランの提示
特に差別化できるポイント:
自分が提案した施策について「実際にこの手法で◯◯業界では××%の効果があった」など、具体的な成功事例や根拠を示せることが中途転職者の強みです。抽象論に終始せず、リアルな経験に基づく洞察を示しましょう。
本記事で紹介した高級レストランチェーンの売上40%増加策は、単なる理論ではなく、実際のコンサルプロジェクトから得た知見をベースにしています。もちろん個別のレストランチェーンによって状況は異なりますが、思考プロセスとフレームワークの応用方法は、ケース面接対策として有効でしょう。
皆さんがコンサルタントとしてのキャリアを築く一助となれば幸いです。具体的なケース対策について質問があれば、コメント欄でぜひお気軽にどうぞ。
最後に一言:
面接では「正解」よりも「思考プロセス」が評価されます。私自身、BCGの面接時に少々強引な前提条件を設定して計算した経験がありますが、その際に「この前提が実際と異なる場合はこう修正します」と付け加えたことが評価されました。自信を持って臨んでください!