コンサル_ケース対策_ 大学の志願者数を前年比20%増やすには?
~ 18歳人口が減少する中で、私立大学が志願者を確保するための広報・魅力化施策を提案せよ ~
中途でのコンサル転職を目指す方にとって、ケース面接は最も重要な採用ハードルの一つです。特に教育業界に関連するケースは、少子高齢化という社会背景も相まって頻出テーマとなっています。今回は「18歳人口減少下で私立大学の志願者数を20%増加させる方法」について、元戦略コンサルタントの私が実務経験に基づいた解答アプローチを解説します。
この記事を読むことで、「定量分析と仮説構築」「優先順位の設定」「インパクトの大きい施策提案」といった、コンサルタントに求められる思考プロセスを学べます。ぜひ実際の面接で差をつけるための参考としてください。
1. ケースの構造理解と基本フレームワーク
このケースでは、「18歳人口減少」という社会環境のなかで、私立大学が志願者数を前年比で20%増加させるという課題に取り組みます。まずはケースの全体像を理解するためのフレームワークを設定しましょう。
志願者数増加の基本フレームワーク
志願者数は以下の要素に分解して考えることができます:
志願者数 = 認知者数 × 興味喚起率 × 願書提出率
(認知者数:大学を知っている高校生の数、興味喚起率:認知者のうち興味を持った割合、願書提出率:興味を持った人のうち実際に願書を提出した割合)
この枠組みに沿って、「認知の拡大」「興味喚起の強化」「願書提出のハードル低減」という3つの観点から施策を検討していきます。
面接官視点:中途採用では、ケース課題に対して「構造的に考える力」が重視されます。単に施策を羅列するのではなく、まずは「志願者増加のドライバーは何か」というフレームワークを示せるかがポイントです。また、自身の経験を活かした独自の視点も加えることで差別化できます。
2. 現状分析:18歳人口減少と大学志願者市場
効果的な施策を考える前に、まずは大学志願者市場の現状を分析します。
18歳人口と大学志願者の推移
年度 | 18歳人口(万人) | 大学志願者数(万人) | 進学率(%) | 私立大学志願者数(万人) |
---|---|---|---|---|
2015年 | 120 | 67 | 55.8% | 53 |
2019年 | 117 | 68 | 58.1% | 54 |
2023年 | 112 | 67 | 59.8% | 53 |
2027年(予測) | 104 | 64 | 61.5% | 50 |
※データ出典:文部科学省「学校基本調査」および「将来推計人口」をベースにした仮定値
上記データから読み取れるポイント:
- 18歳人口は継続的に減少しているが、進学率は上昇傾向にあり、志願者数の減少はやや緩和されている
- 私立大学の志願者数は全体の約8割を占めており、市場の大部分を形成している
- 今後5年間でさらに8万人程度の18歳人口減少が予測されており、単純計算では志願者数も約3万人減少する見込み
私立大学の志願者獲得競争の現状
私立大学間の競争は年々激化しています。特に以下のような傾向が見られます:
偏差値上位校への集中 | 知名度の高い大規模私立大学や難関校は比較的安定した志願者数を維持、中小規模校は苦戦 |
専門分野による差異 | 就職に直結する医療系・情報系学部は人気、文系一般学部は志願者減少傾向 |
立地による二極化 | 都市部の大学は比較的安定、地方の大学は志願者確保に苦戦 |
広報戦略の多様化 | デジタルマーケティングやSNS活用など、従来のオープンキャンパスだけでない広報活動が進展 |
実務家としての視点:私が実際にコンサルティングした地方私立大学のケースでは、認知度の低さが最大のボトルネックでした。首都圏の高校生1000人を対象にした調査では、志望校検討時に「知らない大学は選択肢に入らない」と答えた学生が実に78%。大学の認知度向上は志願者増の絶対条件といえます。
3. 志願者20%増加に向けた数値目標設定
目標を達成するための具体的な数値目標を設定します。仮に中規模の私立大学(年間志願者3,000人)のケースで考えてみましょう。
項目 | 現状値 | 目標値(20%増) | 増加必要数 |
---|---|---|---|
志願者数 | 3,000人 | 3,600人 | +600人 |
この600人の増加を、前述のフレームワークに基づいて分解します:
要素 | 現状 | 目標 | 施策による寄与度 |
---|---|---|---|
認知者数 | 15,000人 | 18,000人(+20%) | +300人(全体の50%) |
興味喚起率 | 40% | 44%(+4pt) | +180人(全体の30%) |
願書提出率 | 50% | 55%(+5pt) | +120人(全体の20%) |
上記のように、認知者数の増加(+20%)による寄与度を最も高く設定し、次いで興味喚起率と願書提出率の向上を図ります。
面接官視点:ケース面接では「定量的な目標設定」が非常に重要です。具体的な数字で分解して示すことで、「論理的思考力」と「目標達成への現実感」をアピールできます。特に中途採用では、「実務で使える分析力」という観点から評価されます。
4. インパクトの大きい施策の提案
目標達成のための施策を、「認知拡大」「興味喚起」「願書提出促進」の3つの観点から提案します。特に、短期間で効果を出せるものと中長期的な施策を組み合わせて考えます。
①認知拡大施策(志願者増の50%寄与)
施策 | 内容 | 期待効果 | インパクト |
---|---|---|---|
デジタルターゲティング広告の最適化 | Z世代の行動特性に合わせたSNS広告(TikTok、Instagram)の展開。特に進路決定期の高校2年夏〜3年春に集中投資 | 認知者数+3,000人 | 高 |
高校教員向けデジタル情報提供の強化 | 進路指導教員向けオンラインポータルの構築。学部・入試情報のほか、卒業生の就職実績などをデータビジュアル化して提供 | 認知者数+1,500人 | 中 |
大学の強みを体現する独自コンテンツ配信 | 大学の特色ある研究や学生活動をショート動画化し、公式YouTubeチャンネルや各SNSで定期配信 | 認知者数+1,000人 | 中 |
「コンサル的」施策ポイント:単なる認知度向上ではなく、「ターゲットセグメント」と「接触タイミング」を精緻化することがカギ。特に、従来型の紙媒体中心の広報から、デジタルを活用した「データドリブン」な広報への転換が効果的です。
例えば、入試データから「どの高校からの志願者が多いか」を分析し、その高校に特化した特別セミナーを開催するなど、ターゲットを絞った施策が有効です。さらに、LINEやInstagramなどZ世代が実際に使用するプラットフォームでの情報発信を強化することで、学生の日常に自然に大学の情報が入り込む環境を作ります。
②興味喚起施策(志願者増の30%寄与)
施策 | 内容 | 期待効果 | インパクト |
---|---|---|---|
バーチャルオープンキャンパスの拡充 | 従来の対面式OCと並行して、メタバースなど没入感のあるデジタル空間でキャンパス体験を提供。地方学生の参加障壁を低減 | 興味喚起率+2pt | 高 |
特色あるカリキュラム改革と広報強化 | 社会人基礎力育成に特化した独自カリキュラムの開発と、その教育効果の可視化。特に「就職に強い」要素をアピール | 興味喚起率+1.5pt | 高 |
学生アンバサダープログラムの構築 | 現役学生がSNSで大学生活や学びを発信。リアルな大学生活のイメージ喚起と親近感の醸成 | 興味喚起率+1pt | 中 |
「コンサル的」施策ポイント:「なぜこの大学を選ぶべきか」という明確な価値提案(バリュープロポジション)の構築が不可欠です。特に、就職実績や卒業後のキャリアパスなど、「大学教育の投資対効果」を示すことが志願者の意思決定において重要な要素となっています。
実務では、大学の強みを客観的に分析し、エビデンスとなるデータを用いて「この大学でしか得られない価値」を明確に打ち出すことが差別化につながります。たとえば「就職率◯◯%」という単なる数字ではなく、「卒業生の平均初任給が全国平均より15%高い」といった具体的な成果指標を示すことで、説得力が増します。
③願書提出促進施策(志願者増の20%寄与)
施策 | 内容 | 期待効果 | インパクト |
---|---|---|---|
戦略的な入試制度改革 | 総合型選抜・学校推薦型選抜の拡充と早期出願者特典の導入。特に、専願者向けの学費減免制度などの経済的インセンティブ設計 | 願書提出率+3pt | 高 |
デジタル出願システムの刷新 | スマートフォン完結型の願書提出プロセスの構築。複数学部出願時の入力簡略化や出願状況リアルタイム確認機能の実装 | 願書提出率+1.5pt | 中 |
受験生コミュニティの形成 | 志望者同士や在学生とつながれるクローズドSNSグループの運用。受験勉強の情報共有や大学生活への期待感醸成 | 願書提出率+1pt | 低 |
「コンサル的」施策ポイント:出願プロセスの各ステップにおける「離脱率」に着目することが重要です。たとえば「大学案内資料請求→オープンキャンパス参加→願書請求→出願完了」という流れの中で、どの段階で志願者が離脱しているかを分析し、そのボトルネックを解消する施策を講じることが効果的です。
また、「意思決定の心理学」の観点から、「早期出願特典」や「限定枠の設定」などで出願行動を促進することも有効です。さらに、出願ハードルとなる学費負担に対しては、分納制度や奨学金制度の拡充など、経済的なサポート体制の強化も志願者増加に寄与します。
失敗しがちなポイント:中途コンサル志望者がケース面接で陥りやすいのは「施策の羅列」です。重要なのは各施策の「インパクト」と「実現可能性」をしっかり評価し、優先順位をつけること。また、漠然とした施策ではなく「誰が・いつまでに・何を・どのように行うか」という具体性も評価ポイントです。
5. 重点施策とシミュレーション
提案した施策の中から特にインパクトの大きいものを選定し、志願者増加のシミュレーションを行います。
重点推進施策(3つの柱)
- デジタルターゲティング広告の最適化【認知拡大】
- Z世代の行動特性に合わせたSNS広告展開
- 高校2年生夏~高校3年生春の進路決定期に広告費を集中投下
- 地域・志向性でセグメント化したターゲティング広告の実施
- バーチャルオープンキャンパスの拡充【興味喚起】
- 地理的制約を超えた参加機会の提供
- 学部ごとの特色ある体験コンテンツの開発
- 参加者の行動データ分析による個別フォローアップ
- 戦略的な入試制度改革【願書提出促進】
- 総合型選抜・学校推薦型選抜の拡充
- 専願者向け学費減免制度の導入
- 早期出願者特典の設計と広報強化
志願者増加シミュレーション
重点施策 | 投資額目安 | 志願者増加寄与 | ROI |
---|---|---|---|
①デジタルターゲティング広告 | 2,000万円 | +300人 | 高 |
②バーチャルOC拡充 | 1,500万円 | +180人 | 中 |
③入試制度改革 | 1,000万円 | +150人 | 高 |
合計 | 4,500万円 | +630人(+21%) | – |
上記3施策の実施により、目標の20%増(+600人)を上回る+630人(+21%)の志願者増加が見込まれます。
私が実際に関わった案件では、施策の実効性を高めるために「小さく始めて、効果測定しながら拡大する」というアプローチが有効でした。例えば、まずは特定の学部や地域に限定して新しい広報手法を試験的に導入し、効果検証した上で全学展開するなど、PDCAサイクルを回しながら施策を磨き上げていくことが重要です。コンサル面接でもこうした「実行フェーズ」への意識をアピールすると評価が高まります。
6. ケース面接での解答例と差別化ポイント
解答例(抜粋)
「私はまず、18歳人口減少という構造的課題の中で志願者数を20%増加させるという目標に対して、志願者獲得プロセスを『認知→興味喚起→願書提出』という3ステップに分解して考えました。
仮に現状の志願者数を3,000人とすると、20%増の目標は+600人となります。この増加分について、認知拡大で300人(50%)、興味喚起強化で180人(30%)、願書提出促進で120人(20%)という配分で達成する計画を立てました。
まず最も重点を置くべきは、Z世代の行動特性に合わせたデジタルマーケティングの強化です。特にTikTokやInstagramなどのSNSを活用し、進路決定のタイミングに合わせた広告展開を行います。次に、バーチャルオープンキャンパスの拡充により地理的制約を超えた体験機会を提供し、興味喚起率を高めます。さらに、入試制度改革として総合型・推薦型選抜の拡充と専願者向けインセンティブを導入し、願書提出率を向上させます。
これら3つの重点施策に約4,500万円を投資することで、目標の20%を上回る21%の志願者増加が実現可能と考えます。」
中途転職者が差をつけるポイント
- 業界知見の活用:前職での経験や業界知識を活かした独自の視点を盛り込む
- 定量分析の徹底:目標値の具体的な分解と、施策ごとの効果予測を数値で示す
- 最新トレンドへの言及:教育DXやZ世代マーケティングなど、業界の最新動向を踏まえた提案
- 優先順位の明確化:「全方位的な施策羅列」ではなく、インパクトの大きい施策に絞り込む
- 実行可能性への配慮:予算制約や組織体制を踏まえた現実的な施策提案
7. 総括:このケースから学ぶコンサル思考法
今回のケース「18歳人口減少下での大学志願者20%増加」から、コンサルタントに求められる以下の思考プロセスが学べます:
- 構造的理解:課題を要素分解し、因果関係を明確化する
- 定量化の徹底:目標を具体的な数値に落とし込み、施策のインパクトを定量的に評価する
- 優先順位づけ:限られたリソースで最大の効果を得るための施策選定と集中投資
- 独自の視点提供:業界常識を超えた新たな切り口や発想の提案
- 実行への落とし込み:「誰が・いつまでに・何を・どのように行うか」まで具体化する
中途でコンサルタントを目指す方は、こうした「構造的思考」と「定量分析」を自分の専門分野の知見と掛け合わせることで、面接での差別化が可能です。今回のケースのように、社会課題と向き合いながら具体的な解決策を提示できる思考力を養っていきましょう。
最後に実務家としてのアドバイス:コンサル面接で高評価を得るためには、単に「正解」を導くだけでなく、思考プロセスの透明性が重要です。数字の根拠や仮説の立て方、優先順位の考え方などを「声に出して」説明することで、面接官はあなたの思考力を評価できます。また、面接時間は限られているため、「何を話すか」と同時に「何を話さないか」の取捨選択も重要なスキルです。実務では「クライアントにとって本当に重要なポイントは何か」を見極め、そこに焦点を当てたコミュニケーションが求められます。