ホテルチェーンの稼働率分析と売上30%増加策
あなたは全国に15店舗を展開する中級ホテルチェーンのコンサルタントです。COVID-19の影響から回復途上にありますが、経営陣は今後2年間で売上を30%増加させる計画を立てたいと考えています。
Bain
マッキンゼー
与えられた条件
- 客室数: 全店舗合計1,500室(1店舗平均100室)
- 客室タイプ: スタンダード(70%)、デラックス(20%)、スイート(10%)
- 平均客室単価(ADR): スタンダード12,000円、デラックス18,000円、スイート30,000円
- 現在の平均稼働率: 全体で65%(平日55%、週末85%)
- 顧客構成: ビジネス客60%、レジャー客30%、団体客10%
- 年間売上高: 約120億円(宿泊売上85%、料飲・その他15%)
- 競合状況: 主要エリアでは高級ホテルと格安ホテルの両方と競合
回答のポイント
- 収益構造を因数分解し、インパクトが大きい要素を特定する
- 限られた情報から論理的に推論し、仮説を立てる
- 少数の高インパクト施策に絞り込む
- 明確で説得力のある因果関係を示す
目安時間: 25分
回答例
1. 収益構造の因数分解
①売上構造の基本方程式:
まず、与えられた条件から現状の売上を各要素に分解して確認します。
- 宿泊売上: 1,500室 × 65% × 平均客室単価 × 365日 = 約102億円
- 料飲・その他売上: 約18億円(全体の15%)
- 合計売上: 約120億円
平均客室単価(ADR)の算出:
- スタンダード(70%): 12,000円
- デラックス(20%): 18,000円
- スイート(10%): 30,000円
- 加重平均ADR = (12,000×0.7) + (18,000×0.2) + (30,000×0.1) = 15,000円
検算: 1,500室 × 65% × 15,000円 × 365日 = 約102億円
②成長に向けた因数分解:
30%成長を達成するには、現在の120億円から36億円増加させる必要があります。各要素の改善でどの程度の貢献が可能か検討します。
【客室数】
現状: 1,500室
改善可能性: 低(短期間での新規出店は困難)
潜在インパクト: 10%増加で+12億円
実現難易度: ★★★★★(非常に高い)
判断: 2年間では注力すべきでない
【稼働率】
現状: 全体65%(平日55%、週末85%)
改善可能性: 高(特に平日の伸び代が大きい)
潜在インパクト: 10pt上昇で+16億円
実現難易度: ★★★☆☆(中程度)
判断: 最重点領域として注力すべき
【平均客室単価】
現状: 15,000円
改善可能性: 中(価格弾力性を考慮する必要あり)
潜在インパクト: 10%上昇で+10億円
実現難易度: ★★★☆☆(中程度)
判断: 重点領域として取り組むべき
【付帯収益】
現状: 約18億円(15%)
改善可能性: 高(業界標準は20-25%)
潜在インパクト: 比率10pt上昇で+15億円
実現難易度: ★★☆☆☆(比較的容易)
判断: 補完的重点領域として取り組むべき
③稼働率の詳細分析:
最もインパクトが大きいと判断した稼働率について、さらに詳細に分解します。
平日と週末の稼働率差異に基づく収益構造:
区分 | 年間日数 | 稼働率 | 売上貢献 | 1%改善の効果 |
---|---|---|---|---|
平日 | 260日(71%) | 55% | 約59億円(58%) | 1.07億円 |
週末・祝日 | 105日(29%) | 85% | 約43億円(42%) | 0.51億円 |
平日の稼働率1%の改善は週末の2倍以上の効果があり、かつ改善余地も大きいことがわかります。平日稼働率の15pt向上で約16億円の増収効果が見込めます。
④客室単価の詳細分析:
客室タイプ別の売上貢献度:
客室タイプ | 構成比 | ADR | 売上貢献 | 構成比1%の効果 |
---|---|---|---|---|
スタンダード | 70% | 12,000円 | 約55.2億円(54%) | 0.79億円 |
デラックス | 20% | 18,000円 | 約23.7億円(23%) | 1.19億円 |
スイート | 10% | 30,000円 | 約19.8億円(19%) | 1.98億円 |
高単価客室(デラックス・スイート)の構成比を現在の30%から40%へ10pt高めることで、約10億円の増収効果が見込めます。
⑤顧客セグメント別の特性分析:
平日稼働率の向上に向けて、主要顧客セグメントの特性を分析します。
セグメント | 構成比 | 平日利用率 | 週末利用率 | 成長機会 |
---|---|---|---|---|
ビジネス客 | 60% | 高(約80%) | 低(約20%) | 平日の長期滞在促進 |
レジャー客 | 30% | 低(約30%) | 高(約70%) | 平日利用の促進 |
団体客 | 10% | 中(約50%) | 中(約50%) | 閑散期の団体誘致 |
※平日/週末利用率は業界標準に基づく推定値
⑥付帯収益の比率分析:
現在の料飲・その他収益の比率は15%(18億円)ですが、これはホテル業界の標準(20-25%)と比較して低い状況です。この比率を業界標準レベルへ引き上げることで、5-10ptの改善(+7-15億円)が見込めます。
⑦結論: 最大インパクト要素の特定
因数分解と分析から、最も売上向上に効果的な要素は以下の3つであることが判明しました:
- 平日稼働率の向上: 現在55%→目標70%(+15pt)
- インパクト: 約16億円
- 高単価客室比率の向上: 現在30%→目標40%(+10pt)
- インパクト: 約10億円
- 付帯収益比率の向上: 現在15%→目標25%(+10pt)
- インパクト: 約15億円
これら3つの要素に集中することで、合計約41億円の売上増加が見込め、目標の30%成長(36億円)を達成可能です。つまり、平日稼働率、高単価客室比率、付帯収益比率の3つの因数が売上成長の鍵となります。
2. 高インパクト施策の立案
特定した3つの最重要因数に対応する、最もインパクトの大きい施策を1つずつ選定します。少数精鋭の施策に集中することで、リソースの分散を避け、確実な成長を実現します。
【核心施策1】ビジネスクラブ 2.0
対象因数: 平日稼働率(55%→70%)
施策概要:
ビジネス顧客向けに、革新的な「サブスクリプション型宿泊モデル」を展開。定額制で全国のホテルを自由に利用できる法人向けプログラムを構築し、平日の長期滞在需要を確保します。
- 主要構成要素:
- 定額制プラン: 月額20万円で月10泊まで全国どのホテルでも利用可能(実質1泊2万円)
- 長期滞在特典: 同一ホテルでの3泊以上の連泊で無料アップグレードやラウンジアクセス提供
- ビジネス特化型設備: 高速Wi-Fi、24時間利用可能な会議室・コワーキングスペース完備
- 柔軟な運用: 直前キャンセル無料、全拠点共通のワンストップサービス
ターゲット顧客:
- 出張の多い企業(コンサルティング、IT、商社など)
- 全国規模のプロジェクト系企業(建設、システム導入など)
- リモートワーク推進企業(オフィス縮小により出張宿泊予算が増加)
競合優位性:
- 一般的な法人割引と異なり、予算管理が容易な定額制
- 全国15拠点をシームレスに利用可能な利便性
- 長期滞在者専用の特典による差別化
期待効果:
平日稼働率を現在の55%から70%へ15pt向上させ、約16億円の増収を実現。企業のサブスクリプション契約により、安定的な稼働と収益を確保します。
【核心施策2】プレミアムルーム・トランスフォーメーション
対象因数: 高単価客室比率(30%→40%)
施策概要:
スタンダードルームの20%(約210室)を戦略的にデラックスまたはスイートルームへ転換し、高単価客室の供給と魅力を大幅に強化します。また、既存の高単価客室も全面刷新し、圧倒的な差別化要素を構築します。
- 主要構成要素:
- 部屋構成の最適化: スタンダード70%→60%、デラックス20%→25%、スイート10%→15%
- 価値の可視化: 各客室タイプの明確な差別化要素確立(単なるサイズ差ではなく体験価値の差別化)
- ハイブリッド活用: スイート客室の一部をデイタイム会議スペースとして活用(稼働率向上)
- 自動アップグレード: チェックイン時の空室状況に応じた自動アップグレードによる高単価室露出
ターゲット顧客:
- 記念日・特別な機会に利用するカップル・家族
- 上級管理職のビジネス客(役職者層)
- 高級ホテルとの価格差を重視する富裕層
競合優位性:
- 高級ホテルより20-30%低価格でプレミアム体験を提供
- デジタルとリアルを融合した客室体験(スマートルーム機能)
- プレミアム客室予約者向けの特別サービス(専用チェックイン、朝食優待等)
期待効果:
高単価客室比率を現在の30%から40%へ10pt向上させ、約10億円の増収を実現。客室単価の全体的な底上げにも貢献します。
【核心施策3】F&Bエクスペリエンス・ハブ化
対象因数: 付帯収益比率(15%→25%)
施策概要:
ホテルの料飲部門を根本から再定義し、単なる宿泊者向け飲食提供の場から、地域の「食とエンターテイメントの拠点」へと転換します。外部からの集客を強化しつつ、宿泊者の館内消費も大幅に向上させます。
- 主要構成要素:
- レストラン革新: 有名シェフ監修の地域食材特化型メニュー、SNS映えを意識した視覚重視の提供方法
- 時間帯変化型空間: 朝食→ランチ→カフェ→ディナー→バーと時間帯で変化するフレキシブル活用
- イベント活用: 料理教室、ワイン試飲会、シェフイベントなど定期的な体験型イベント開催
- デリバリー展開: 周辺オフィス向けランチデリバリー、近隣住民向けディナーデリバリーサービス
ターゲット顧客:
- ホテル宿泊者(利用率と客単価向上)
- 周辺オフィスワーカー(ランチ・アフター5需要)
- 地元住民(特別な外食体験を求める層)
競合優位性:
- 一般飲食店にはない洗練された空間と接客
- ホテルならではの多様な飲食体験(朝食からバーまで)
- イベント企画による集客と付加価値創出
期待効果:
付帯収益比率を現在の15%から25%へ10pt向上させ、約15億円の増収を実現。収益源の多様化により、景気変動に強い経営基盤を構築します。
3. 成長シミュレーション
①3大核心施策による売上成長シミュレーション
核心施策 | 対象因数 | 改善幅 | 売上貢献額 |
---|---|---|---|
【施策1】ビジネスクラブ 2.0 | 平日稼働率 | 55%→70% (+15pt) |
+16億円 |
【施策2】プレミアムルーム・トランスフォーメーション | 高単価客室比率 | 30%→40% (+10pt) |
+10億円 |
【施策3】F&Bエクスペリエンス・ハブ化 | 付帯収益比率 | 15%→25% (+10pt) |
+15億円 |
合計効果 | – | – | +41億円 |
現状売上: 120億円
目標成長率: +30%(+36億円)
施策効果合計: +41億円(+34.2%)
目標達成率: 114%
②因数改善による収益構造変化
現状収益構造
宿泊売上: 102億円 (85%)
付帯収益: 18億円 (15%)
- 平均稼働率: 65%(平日55%、週末85%)
- 高単価客室比率: 30%
- 平均客室単価: 15,000円
施策後収益構造
宿泊売上: 128億円 (75%)
付帯収益: 33億円 (25%)
- 平均稼働率: 72%(平日70%、週末85%)
- 高単価客室比率: 40%
- 平均客室単価: 16,500円
③相乗効果とリスク要因
相乗効果 | リスク要因 |
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3つの核心施策により、目標の30%成長(+36億円)を上回る41億円(+34.2%)の増収効果が見込まれます。これら施策は互いに相乗効果を発揮し、収益構造そのものを強化する効果があります。また、わずか3つの施策に集中することで、実行力と組織の理解度を高め、確実な目標達成を実現します。
面接官が評価するポイント
- 収益構造の精緻な因数分解: 売上を構成要素に分解し、各要素のインパクトを定量的に評価
- 論理的な推論プロセス: 限られた情報から妥当な仮説を立て、順序立てて結論に至る思考過程
- インパクトの定量化: 各施策の効果を具体的な数字で示し、目標達成への貢献度を明確化
- 集中と選択: 多数の小さな施策ではなく、少数の高インパクト施策に集中する戦略的思考
- 業界知識の活用: ホテル業界特有のKPI(ADR、RevPAR等)や市場特性を踏まえた提案