1. ケース面接の裏側:面接官が見ているポイント
コンサルファームの中途採用ケース面接では、表面的なフレームワーク暗記ではなく、実務での「思考プロセス」が問われています。私が面接官として100名以上の候補者を見てきた経験から言えることですが、特に以下の3点が評価されます:
①論理構造の明確さと仮説思考:問題設定から解決までの道筋が明確か
②定量分析の精度と現実感:数字に根拠があり、実務に落とし込める視点があるか
③クライアント目線での提案力:実行可能性を踏まえた優先順位づけができるか
特に②の「数字感覚」は、中途採用では重視されます。新卒と違い、「そこそこ合っていれば良い」では評価されません。業界知見がなくても、一般常識から推論できる数字の妥当性が問われるのです。
2. 問題設定と前提条件の整理
今回扱うケースの前提条件は以下の通りです。実際の面接では、こうした前提をすべて明示してもらえるとは限りません。不明点は質問することも評価ポイントです。
項目 | 詳細 |
---|---|
事業形態 | 全国に200店舗を展開するコーヒーショップチェーン |
主力商品 | コーヒー等のドリンク類(客単価:平均500円) |
営業日数 | 年間360日(祝日・年末年始一部営業) |
主要顧客層 | 20〜40代のビジネスパーソン |
競合状況 | 大手チェーン3社との競争が激化 |
最近の業績 | 売上横ばい、利益率は微減傾向 |
まず、クライアントのビジネスを「因数分解」し、各要素の影響度を定量的に把握することです。コーヒーショップの場合、以下の公式が基本となります:
売上 = 店舗数 × 1店舗あたり客数/日 × 客単価 × 営業日数
= 店舗数 × 滞在時間あたり客数 × 1日の営業時間 × 座席回転率 × 客単価 × 営業日数
※実務では更に「来店頻度」も重要な指標ですが、今回は簡略化のため基本公式に絞ります
3. 売上の定量推計プロセス
一般的なコーヒーショップの営業実態から仮説を立て、各数値を推計します。私がクライアントと実際に行った分析手法です。
店舗データの推計
- 平均的な店舗面積:80㎡(約24坪)
- 座席数:約40席(2名掛けテーブル×15、カウンター10席)
- 営業時間:7:00〜22:00(15時間)
- ピーク時間帯:朝(7:00-9:00)、昼(12:00-14:00)
- 座席回転率:平均2.5回転/日(ピーク時4回転、オフピーク時1.5回転)
時間帯 | 座席利用率 | 回転率 | 推計客数 |
---|---|---|---|
朝(7-9時) | 85% | 1.5回転 | 約51人 |
昼(12-14時) | 90% | 1.5回転 | 約54人 |
夕方(17-19時) | 70% | 1.2回転 | 約34人 |
その他時間帯 | 50% | 3.0回転 | 約171人 |
1日あたり合計客数 | 約310人 |
ここで重要なのは、単純な推計ではなく「時間帯別の客層特性」を踏まえた数値設定です。例えば朝は「テイクアウト比率が高い」という特性があり、実務では更に緻密な分析を行います。
年間売上 = 200店舗 × 310人/日 × 500円 × 360日
= 11,160,000,000円(約112億円)
実際のコンサル面接では、「約112億円」のような概算でまとめるのがポイントです。不必要に桁数の多い数字を出すよりも、インパクトのある数字で「ビジネス感覚」をアピールしましょう。
4. 売上30%増加に向けた戦略フレームワーク
次に30%増の目標達成のため、売上を構成する各要素にどれだけのインパクトを求めるかを設計します。ここでは私が実際のプロジェクトで活用する「成長ドライバー分解法」を応用します。
注目すべきは、多くの受験者が「まんべんなく」改善を考えるのに対し、実務では「選択と集中」が重要だということです。特に私の経験では、客数増加策が最も即効性があり、投資対効果も高い傾向があります。
現場の洞察:私がある大手コーヒーチェーンの改革プロジェクトで発見したことですが、「客数増加施策」はリソース投下量に対する売上改善効果が最も大きい傾向があります。特に既存客へのアプローチよりも、潜在顧客の掘り起こしによる「客数」増加が重要です。
5. 施策立案:現場で効果が出た具体策
各ドライバーに対して、私がコンサルタントとして関わった実プロジェクトで効果が検証された施策を紹介します。
客数増加策(目標:15%増)
① デジタル活用によるピーク時間帯の回転率向上
モバイルオーダー&ペイの導入で注文・会計時間を短縮。あるクライアントでは平均滞在時間が21.3分から17.5分に短縮され、ピーク時の座席回転率が22%向上しました。特にテイクアウト客の待ち時間削減効果が顕著でした。
実施コスト:システム導入1,500万円+運用コスト
売上インパクト:約8%増(ピーク時間帯の回転率向上による)
② 低稼働時間帯の需要創出キャンペーン
特に17-19時の「デッドタイム」に着目し、「イブニングセット」の導入。コーヒー+軽食で650円の設定で、夕方の座席利用率を70%→85%に向上させた実例があります。
実施コスト:メニュー開発+プロモーション費800万円
売上インパクト:約5%増(低稼働時間帯の需要喚起)
③ ターゲット顧客層の拡大:ワーキングスペース化
平日13-17時のオフピーク時間帯に「ワーキングプラン」を導入。コーヒー+電源・Wi-Fi使い放題で時間課金制(1時間500円~)に設定。実績として低稼働時間帯の客数30%増、滞在時間は2.3倍に。
実施コスト:環境整備1,200万円
売上インパクト:約3%増(新規顧客層の獲得)
客単価向上策(目標:8%増)
① フード比率向上によるアップセル
コーヒーとの相性を重視した軽食メニューを開発し、「セット割引」を導入。従来のフード購入率18%から32%へ向上した事例があります。社員の接客スクリプトも「+〇〇はいかがですか?」から「コーヒーに合う〇〇と一緒にいかがですか?」に変更。
実施コスト:メニュー開発600万円
売上インパクト:約5%増(客単価向上)
② プレミアムライン強化
スペシャルティコーヒーの品揃え拡充と、バリスタによる抽出方法の選択肢を提供。平均単価500円→580円に向上した実例があります。
実施コスト:メニュー開発+トレーニング500万円
売上インパクト:約3%増(客単価向上)
来店頻度向上策(目標:5%増)
① サブスクリプションモデルの導入
月額制のコーヒーパス(月3,000円で毎日1杯無料)を導入。会員の来店頻度が月平均4.2回→8.6回に増加した実例があります。
実施コスト:システム開発1,000万円
売上インパクト:約3%増(常連客の来店頻度向上)
② パーソナライズされたプッシュ通知
顧客の購買履歴に基づいた個別オファーをアプリで配信。休眠客の再訪問率が35%向上した事例があります。
実施コスト:システム開発+運用800万円
売上インパクト:約2%増(休眠客の再活性化)
6. 優先施策の選定と期待効果
ここで重要なのは、「多くの施策を羅列する」のではなく、「実行可能性と効果を踏まえた優先順位付け」です。経営資源(ヒト・モノ・カネ)には制約があるという現実を踏まえ、最大の効果を生む施策に集中すべきです。
特に優先すべき施策組み合わせとして、以下の3つに集中することで、効率的に目標達成が可能です。
優先順位 | 施策 | 売上インパクト |
---|---|---|
最優先 | モバイルオーダー導入+低稼働時間帯の需要創出 | 13%増 |
次点 | フード比率向上施策 | 5%増 |
次点 | サブスクリプションモデル導入 | 3%増 |
モビライズ施策 | ワーキングスペース化+パーソナライズ通知 | 5%増 |
プレミアムライン強化 | デスティネーション化によるブランド力強化 | 3%増 |
中長期 | 店舗拡大 | 2%増 |
合計期待効果 | 31%増 |
実務ではしばしば「目標+αのバッファ」を見込んだ計画が重要です。30%目標に対し31%の施策効果を見込むことで、一部施策が計画通り進まない場合のリスクヘッジとなります。
7. 中途転職者のためのケース面接攻略ポイント
実際のコンサルタントとして長年経験を積んできた私が、中途採用の面接官として感じる「差をつけるポイント」をまとめます。
① 数字の裏付け:「なんとなく」の数字ではなく、妥当性ある推論過程を示す
② 優先順位の明確化:リソース制約を意識した「選択と集中」の視点を持つ
③ 実務に基づく知見:業界知識がなくても、一般的なビジネス感覚から妥当性ある推論ができる
④ クライアント視点:実行可能性や投資対効果を踏まえた提案ができる
⑤ 本質を捉える力:表面的な問題ではなく、根本原因に切り込める
面接では、単にフレームワークを適用するだけでなく、「なぜその分析が重要なのか」「なぜその施策が効果的なのか」という本質的な理解を示すことが重要です。教科書的な回答よりも、実務経験に基づいた思考プロセスをアピールしましょう。
最後に、中途採用では「あなたならではの視点」が評価されます。業界標準的なアプローチに加え、自分の経験からの独自の洞察を1つでも加えることで、面接官に強い印象を残せます。
コンサルタントとして10年以上現場で培った経験から言えることですが、売上向上のための「王道」は存在しません。各々の状況に応じた「オーダーメイドのソリューション」を導く思考プロセスこそが、コンサルタントとしての真価なのです。